東京サリーのベターライフ。

ベスト、じゃなくてベターでいい。

『踊る彼女のシルエット』(柚木麻子さん)感想✩⃛

 

柚木麻子さんの『踊る彼女のシルエット』を読んだ。

ジェーンスーさんが好きなのだけど、帯にはジェーンスーさん共感の文字が。解説もスーさんということで、思わず手に取っちゃった。

あらすじ

義母が営む喫茶店を手伝う佐知子と芸能事務所でマネージャーをする実花。出会ってから十六年。趣味にも仕事にも情熱的な実花は佐知子の自慢の親友だった。だが、生み育てたアイドルグループが恋愛スキャンダルで解散に追い込まれたのをきっかけに、実花は突然"婚活"を始める。「私には時間がないの」と焦る彼女に、佐知子は打ち明けられないことがあり…。幸せを願ってしまう二人の友情のゆくえは。

 

世間に振り回される女の友情

女とはこうでなくてはならないという世間の呪いに、女の友情は揺さぶられがちなのかもしれない。

 

結婚しなくちゃ、子供を産まなくちゃ、何歳まで35歳までに?それなら何歳までに結婚、、?

私はこれを書いている現在25歳なのだけど、周りもちょっとずつ結婚してる人はいるとはいえ、少数派。

でも女の友情は結婚や子供ができることで変わっていくという話は聞いたことがある。

これは婚活や妊活を機にすれ違ってしまう二人の女性の物語だけど、読んでてなんだかとても歯痒い。

二人の価値観が決定的に変わったとか彼女たち自身の問題というよりは、世間の価値観によって歪められた友情なのだ。

 

それを象徴的に表しているのが、佐知子が勤める喫茶店「ミツ」の鳩時計。

物語の冒頭はこう始まる。

考えてみれば、そもそものはじまりは喫茶「ミツ」にあの年代物のドイツ製の鳩時計がやってきたことだった。あの瞬間から、店での時間流れは徹底的に変わってしまった。

女子のタイムリミットを気にし出すことで、歯車が狂っていく象徴のようだった。

でも佐知子が夫とこの鳩時計を止めることから物語りは少し前向きになっていく。

夫はとても佐知子に理解があってこんなセリフを言う。

「でも、それ、さっちゃんと実花ちゃんだけの女の問題っていうんじゃないと思うよ。結婚しなきゃだめって思い込んで自分らしくないことを無理にして、昔からの友達と疎遠になるのって、それ、個人の責任や努力だ解決しなきゃいけない問題なのかな?さっちゃんが、実花ちゃんが強くなれば解決することなのかな?俺にも関係あるし、母さんにも、うちの商店街全体にも、なんなら俺たちのお腹の子にも関係あるんじゃないの」

まだ私にはこの女の友情問題は少し先なのかもしれないけど、この本を読んだからこそ、冷静になれるかもしれない。

本人だけの問題ではないのがややこしいのかもしれないけれど、きっとお互いを責める必要はない。

向き合うべきは世間の価値観に振り回されそうになる自分自身なんだろう。

 

アイドルについて

女の友情以外に「アイドル」というもう一つのテーマがある。

佐知子がアイドルオタクでもある実花に

「あのね、実花。私、ずっとオタクになりたいって思ってたの。オタクっていう言い方は、失礼にあるのかな。ただね、自分の好きなものにまっすぐになれて、他の人からどう見えるとか、どう思われるとかおかまいなしの、好きなもの以外はどうでもよくて、なにがあっても平気な人になりたかったの。迷いのない人になりたかったの」

と伝えるシーンがある。

佐知子は、全力でアイドルを愛し応援する実花が好きだった。

この気持ちすごくわかる気がする。

推しがいる時ってとてつもなく楽しい。生きる勇気になる。

恋愛と違って、一方的に愛していいんだもん。

嫌われるかな?とか考えなくていい。

全力で愛することができる。

愛するって生きてるってことだもん。

そんな生命力のみなぎることないよなあ。

今の自分にそこまでのめりこめる推しがいないから、アイドルオタクの友だちの話とか聞くと素直に羨ましいなぁなんて思う。

アイドルに限らず、のめりこめるものを持っている人の生命力ってすごくて眩しい。

私もまたなにかのめりこめることができますように。